桜の季節、またふたりで
その資料は開かれないまま、先生や母にも相談しないまま、夏休みは終わってしまった。


夏休み中、五十嵐さんは返事をせかすことなく、車でいろいろなところへ連れて行ってくれた。


五十嵐さんと一緒に過ごすことが当たり前になってきて、友達以上恋人未満の感じだった。



9月のある日、バイトが休みで図書館へ行き、定位置に座ったら、隣の高校生が『進路に悩むあなたへ』という本を読んでいた。


そんな本もあるんだ、と素直に思った。


まだ夢や希望を抱いていた頃、私は何にあこがれていたんだろう。


我慢すると褒められることを学習した私は、あきらめることを覚え、高校を卒業したら就職すると決めていた。


今年度最初の面談でもそう話したら、


「神田、進学しなくて本当にいいのか?」


と、すごく残念そうな顔をしていた。


高校としては、担任としては、なるべく偏差値の高い大学へ合格させ、対外的な評価を上げたいんだろうな、と思った。


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