桜の季節、またふたりで
エレベーターを降りて右手へ進むと、305号室の青いドアが見えた。


「ここ」


つないだ手とは反対の右手で指差した先には、『IGARASHI』と表札が出ていた。


「・・・おじゃまします」


玄関の電気が灯ると、こげ茶色のフローリングの廊下があって、お風呂やトイレがあると思われるドアがいくつかあって、リビングへ通された。


テレビとダイニングテーブルがあるだけで、他には何もないシンプルなリビングだった。


「何もなさすぎて驚いただろ」


「ううん、余計な物がないほうがいいと思う。


ぬいぐるみとかあったらどうしようかと思ったけど」


「まあ、テキトーに座って」


飲みかけのアイスティーのペットボトルは、うっすら汗をかいていた。


五十嵐さんは、コーヒーの入ったマグカップを手に向かい合わせで座った。


「明日休みだし、朝までしゃべってもいいぞ」


「そんなにはかからないけど」


私は、ある覚悟を決めて、話し出した。


< 45 / 231 >

この作品をシェア

pagetop