桜の季節、またふたりで
竣くんのマンションまで、自転車で行った。


大きな荷物を持っている私は、部活帰りの高校生みたいだった。


もし部活に入れたら。


高校を選べたら。


両親が離婚しなければ。


私は、どんな高校生活をおくっていたんだろう。


ピアノを習えたとしても、途中で飽きてやめたかもしれないし、プロを目指していたかもしれない。


夢や希望に満ちあふれて、友達もたくさんいて、毎日が楽しくて仕方なかったかもしれない。


だけどきっと、竣くんに出会えなかった。


何かを手につかんだら、他の何かをあきらめないと手がふさがってしまうから。


だからみんな、何かを求めて頑張ったり、夢破れてあきらめたりするのかもしれない。


私は今まで、満足できる生活ではなかったけれど。


竣くんっていう、かけがえのないたった一人の大切な人に出会えた。


それだけで、幸せだった。


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