桜の季節、またふたりで
「ありがとうございました」


話を終わらせようと思って、ペコリと頭を下げた。


「美春ちゃん、またね」


五十嵐さんは、屈託のない笑顔で手をふっていた。


私とは正反対の生活を送ってきたから、あんな風に笑えるんだろうな。


私は、あんな風に心から笑えないな。


愛想笑いがうまくなり、コンビニのマニュアル通りのことだけ話すのがうまくなった。



整備工場を背中に、図書館への道を左折する。


ここは高校からコンビニへ行く最短ルートだし、バイトじゃなくても図書館へ行く時は通るから、また明日も整備工場の前を通らなくちゃならない。


憂鬱な気分で図書館の自動ドアをくぐり、いつもの定位置へ朝刊を片手に向かう。


うちは、新聞を定期講読していない。


小さい頃から図書館が逃げ場だった私にとって、ここは第二の我が家みたいだった。


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