闇喰いに魔法のキス《番外編》
自分で言った言葉が、どすん、と体にのしかかる。
…一週間おあずけか。
毎週欠かさないルーティーンだったのに。
いや、確か来週は当直だった。
…ということは、二週間おあずけ…?
気分がどん底に落ち、それを表に出さないように立ち去ろうとした
その時だった。
「…待った。」
え…?
低く、艶のある声が私を呼び止めた。
ふっ、と声の方を見ると、入り口近くの窓際の席に座る青年と目が合う。
漆黒の髪、藍色の瞳。
同い年くらいだと思うが、どことなく色気の漂う青年だった。
「俺はもう店を出る。この席に座りな。」
えっ?!
願ってもみなかったまさかの展開に
私は、ぎゅん!と気分が上がった。
しかし、青年のテーブルの上に乗った皿を見ると、まだ料理が半分ほど残っている。
「まだ食べている途中だったんじゃないですか?」
私がそう尋ねると、青年は少し目を細めて答えた。
「残りはテイクアウトにするから大丈夫だ」
…!
まさかこの人、私に気を遣ってくれているのかな。
私は、青年の言葉に甘えたい気持ちをぐっ!と堪え、口を開いた。
「あの、お気遣いは嬉しいのですが、申し訳ないです。
私はまた、日を改めて来ますので」
すると青年は、微かに口角を上げて席を立ち上がりつつ言った。
「うきうきした様子で店に入ってきて、満席だと知った瞬間目の前で“この世の終わり”
みたいな顔をされちゃ、誰だって席を譲りたくなるだろ。
…遠慮しないで、早く座りな。」
っ!
私、そんなに顔に出てた…?
態度には出していないつもりだし、これでもタリズマンでは“冷静沈着な氷の女”として通ってるんだけど。
彼の言葉に何も言えずにいると、青年はコートを羽織り、カバンを肩にかける。
!
行っちゃう…!
私は、会計を済ませようと私とすれ違った青年のコートを咄嗟に掴んだ。
「!」
「…あ…。」
驚いた様子の青年に、私も体が固まる。
私、何を引き止めているんだ?
無意識に体が動いていた。
「あ、あの…えっと…」
どもる私を、青年は黙って見つめている。
沈黙に耐えかね、私は自分でも想像していなかったセリフを口をした。
「私のことは空気だと思っていいので“相席”
しませんか!」
「え…?」