闇喰いに魔法のキス《番外編》



その時、私の脳裏にある“噂”が浮かんだ。


“調べられないことはないと言われる、凄腕の情報屋”

“黒き狼”


私は、改めて青年を観察する。


漆黒の髪に、椅子にかけてある細身のコート

店から立ち去ろうとした時、一瞬バッグから見えた“黒いパソコン”。



…まさか、この男が…?



すると、その時

青年が食事の手を止め、私を見た。



「…何だ?

そんなに見られると、落ち着かないんだが」






自分から“空気だと思っていいから相席しよう”と持ちかけたのに

つい、じろじろ見入ってしまっていた。


…この際だ、聞いてみよう。


私は彼の藍色の瞳を見つめ、少し小声で尋ねた。



「違っていたらごめんなさい。

もしかしてあなたは、情報屋の“黒き狼”
…?」



「…!」



青年は、小さく目を見開いた。


そして少しの沈黙の後、動揺も見せない表情で答えた。



「あぁ。…まさか、少し話しただけで言い当てられるとはな。

あんたも十分、情報屋の素質がある。」







私は、彼の言葉にどきん、と胸が鳴った。



…本当に、この人が“黒き狼”なんだ…。



私は、独り言のようにぽつり、と呟く。



「職場で噂は耳にしてたけど…

もっと年上かと思ってたわ…。」



青年は、微かに眉を動かした。


そして、ふっ、と口角を上げて話し始めた。



「まぁ、俺はただの人間だから、観察眼でどれだけ情報を集められるかが大事なんだ。

魔法が使えればもっと簡単に情報が手に入るんだろうが、魔法は使いこなすのが難しそうだ。」



「そうですか?

生まれた時から備わっている力だから、扱いやすいと思うけど…。」



私の返答に、青年は頬杖をついて話を続ける



「情報屋は“ツテ”も大事だが、自分の足で動いてデータを集めるのが基本なんだ。…その分疲れるがな。

あんたも歩き方が毎回ぎこちないが、筋肉痛なのか?」



「!…実は、足も肩も、身体中痛いんです。腹筋はだいぶ治ったけど。

体力勝負の仕事の辛さは、私もよく分かります。」



青年は料理を綺麗に平らげ、運ばれてきた酒を口にした。


どこか色気のある仕草につい見惚れていると青年は会話を再開した。



「所詮、情報屋は“裏の仕事”だ。そのせいで闇に襲われて危ない目に遭ったこともある

闇と戦うのは専門外なんだが、慣れてきている自分を褒めたいよ。」



「確かに、闇と戦うのは骨が折れますよね。

少しは活動を自粛して欲しいわ。」



青年が語る内容に、私は妙に納得し親近感を覚える。


この人もいろいろ大変なのね。


“裏の仕事”をしているけど、闇と戦うってことは悪い人じゃないのかも。

私の相席してくれる、懐の深い人なんだもの


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