闇喰いに魔法のキス《番外編》
その時
店員が“特別メニュー”を運んできてテーブルに置いた。
目の前の料理と、美味しそうな匂いに
つい、笑みがこぼれそうになる。
…っと、いけない。
感情はあまり表に出さないようにするのが、何事もそつなくこなせるようになる秘訣だ
何があっても、心の奥で気持ちをコントロールする。
私が、いただきます、と手を合わせ、ナイフとフォークを手にした
その時だった。
「よかったな。今日、肉にありつけて。
タリズマンの過酷な仕事のご褒美ってトコか。」
「っ?!」
カシャン!!
肉を突き刺すはずだったフォークが、真っ白な皿に当たって音を立てる。
動じない余裕のある表情を浮かべる青年に、私は目を見開いた。
今…。
この人、“タリズマン”って言った…?
私、タリズマンの隊員だなんて一言も言ってないのに…?
動揺を隠す余裕もなく青年を見つめていると
彼は私の心を見透かしたように話し始めた。
「あんたが店に来るのは決まって閉店一時間前の夜中だ。遅くまで仕事をしなくてはいけない上に、週末しかここに来れないほどのハードな職種。
筋肉痛も、肩や背中ならデスクワークだが、足や腹筋、身体中となるとそうではない。
それに、体力勝負の仕事で“黒き狼”の噂が職場で出回るとあんたは言った。」
…!
私が言葉を失っていると、青年はさらり、と続けた。
「俺が“魔法は使いこなすのが難しそう”と言った時、あんたは否定し、“扱いやすい”とまで言った。魔法使いの証拠だ。
それに、極め付けは“闇と戦う”という特殊な経験について話した時。
魔法使いと言えども、普通の奴は闇とは戦わない。ましてや、あんたは女だ。」
青年は酒の注がれたグラスを口に運びながら
推理の結びの爆弾発言を口にした。
「会話中に“私はタリズマンだ”と自分で言ったようなものだ。
隙のない女かと思っていたが、案外素直なんだな、あんた。」
「っ!」
かぁっ!と、つい頬が赤くなる。
この男、上手く誘導して私に喋らせた…?!
全然、相手のペースに巻き込まれていることに気が付かなかった。
ひたすら、淡々と語られた内容は、すべて筋が通っていて、真実でもある。
これが、“黒き狼”…。
“凄腕の情報屋”どころじゃない。
この男の前では、どんな人だって隠し事は出来ない。
おまけに、整った顔に長い指。
艶のある低い声は、私の心の奥まで入り込む。
…こんな、“ダダ漏れの色気”に、抗える人なんているんだろうか。