闇喰いに魔法のキス《番外編》
私が、不安げにレイを見つめていると、レイは慣れた手つきでカクテルを作り始め
トン、とお客の前にグラスを置いた。
透明なグラスには、綺麗な赤いお酒が注がれている。
「…!」
お客さんは、目の前に置かれたグラスを見るなり、はっ!として固まってしまった。
…。
き、気に入らなかったのかな…。
私とロディ、ルオンが様子を伺っていると
レイがカウンターに手をついて、俯いてしまったお客さんを軽く覗き込んだ。
「…お客様、お気に召しませんでしたか?」
レイが、そう言った
次の瞬間だった。
ばっ!!
いきなり、お客さんがレイの手を握った。
え
驚く私たち。
そして目を見開くレイに、顔を上げたお客さんは野太い声で言い放った。
「やっだぁ、お兄さんから見たアタシのイメージって、こんなに綺麗なのぉ?
あら、近くで見たらやっぱりいい男ねぇ♡
好きになっちゃった♡♡きゃ♡」
「!!!!!!!」
顔を上げたお客さんは、完全なる男だった。
しかし、口調と仕草からは女性らしさ(?)が感じられる。
その場を見守る私たちが一気に凍りついた瞬間
お客さんはレイとの距離を一気に縮めて呟いた。
「ねぇ、お兄さん。あなた、アタシのストライクゾーンだわ♡
今夜どぉ?アタシと新しい扉を開かない?」
「え、いや、僕はもう心に決めた人が…
」
目の前で繰り広げられる会話に戦慄する。
お客さんは、目から熱烈な愛のビームを出しながら、レイの腕を引っ張った。
「そんなカタイこと言わないで。アタシ、ここに来るのは初めてじゃないのよ。
いつもあなたをいいなって思ってたけど、雰囲気が怖くて近づけなかったの。」
レイの顔が青ざめた時
お客さんは照れたように言葉を続けた。
「でも、今日は紳士的で優しい雰囲気だったから、勇気出して誘っちゃうわ。
ワイルドなお兄さんも好きだけど、王子みたいなお兄さんの方が、ス、キ、よ♡」
「や、やめろっ!離せ!!
俺にそういう趣味はねぇっ!」
「兄さん、素が出てる、素が!」
慌てたルオンがガタ、と席から立ち上がった
その時
馬鹿力でカウンターから連れ出されたレイは
お客さんによって抱きかかえられた。
その光景は、まさに“地獄絵図”。
「お、おい待て?!!」
「アタシ、惚れた男にはノンストップなの♡
さ、アタシとランデブーよ♡」
「ちょ、おい!!離せ!!
ルミナ、ルミナぁ!!!彼氏が襲われるぞ!連れてかれるぞぉ!!ガロア警部だ!!!奴を呼んでくれ!!ロディィィィィィィィィィ」
私たちは、その場から動けず開いた口が塞がらなかった。
「……なんだ、アイツは。化け物か…?」
「兄さん……罪な男…。」
そう呟いたロディとルオンの声は
静まり返った酒場に小さく響いた。
…その後。
レイはギルスマイルを封印し、前よりも格段に目つきとオーラが鋭くなってしまったことは言うまでもない。