ライ【完】
「これも変えるから。」

そう言って新しい弦を取り出したライ。

家に新しい弦なんてなかった筈なのに。

「買ったの?」

「当たり前だろ!元カレどころかこれは俺も怒るよ!」

ライがそう言い終わる頃には

ギターの弦が全て張り替えられていた。

ギターを床に寝かせて置くと

「貸して。」

と私にさっき預けたベースに

ライの手が手がのびた。

頷いてライにベースを渡す。

「…酷いなこれ。ボディーもあんまり磨いてなかっただろ。何で?」

そう問いかけるライ。

――そういえば、何で放っておいたんだっけ?

「ごめん、覚えてない。多分、忙しくてお手入れできなかったんだと思う。大学に入ってからは1度も弾いてないの。」

そう言うとライは

「ふーん。」

と言い訳を聞いているような顔をして

ニッパーで弦を切り始めた。

バチンと

部屋のなかで大きな音をたてて

弦が切れる。

言い訳じゃないんだけどな…

言い訳に聞こえるけれど。

「ほら、志穂も。」

そう言ってライは突然ニッパーを渡してきた。

「えっ?私無理だよ!握力全然ないし!」

即座に拒否したがライは

「良いから。」

とニッパーをまた私の前につき出す。

いやいや、無理だよ。

今までずっと他の人に弦交換頼んでいたし、

それにライは何で太い3弦と4弦を残したの!?

切りにくいじゃん!

「そんなこと言わないでほら!それに4弦と3弦切れたら他の弦だって自分で切れるだろ!」

そう言ってライは無理矢理

ニッパーを私の手に握らせた。
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