ライ【完】
切れない。

切ろうとして力をいれても

弦が歪む感触はあるけれど一向に切れない。

だから無理だってば!

「ね~ライ!手が痛いよ。」

そう言ってライを睨むとライは

「たく、仕方ねぇな。」

と言ってからニッパーをもつ私の両手を

自分の両手で包んだ。

――つまり今、

ライが私の真後ろにいる状態。

後ろから抱かれるような状態に

私の心拍数は上がる。

「弦を切るのを怖がってどうするんだよ?そんなんじゃ弦切れないよ。」

そう耳元で言うもんだから

私が手に込めていた力がまた弱くなる。

「べっ…別に…怖がってないもん!」

「とか言って本当は怖いんだろ。志穂、俺が弦切るとき凄いビビり顔になってるけど気づいてる?」

「え?嘘!?」

「本当。」

そう言ってライは自分の手に力を込めた。

「ほら、志穂も力入れろよ。」

「わかってる!!」

ライに促されて私も力を込めた。

「――何も怖くねぇよ。」

耳元でそう囁かれた後、

バチン―――

あんなに固かった4弦は

簡単に切れた。
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