ライ【完】
『これ弾くの!?』

渡された楽譜を見て愕然とする。

楽譜を渡してきた人物――

元カレはそんな私を見て偉そうに言った。

『お前、一緒にミュージシャン目指すんだろ?これくらい弾けるようになれよ。』

『あんたは楽器経験者だけど、私はベース初心者だよ?この前一緒に楽器選びに行ったじゃん!!』

『でも、これが弾けるようになればお前、弾けなきゃいけない奏法一通りマスターできるぞ。』

『無理だよ!他の曲に変えて!』

『…これで大会のエントリーシート出した。』

『最悪っ!!』

そう。

元カレは頑固で

自己中心的で

音楽バカで

ギターしか弾けないと思ったら

ドラムは叩ける。キーボードも弾ける。

ベースも弾ける。

のようにとにかく

音楽に関して物凄い才能を持っていた。

さらに…

『…そこ!奏法違う!何で2フィンガーで弾き倒そうとしてるんだよ!?こんな速いテンポの曲で2フィンガーは無理があるだろ!3フィンガーで弾くんだよそこ!』

『3フィンガー!?何それ!?』

『だーかーらー人差し指と中指だけじゃなくて薬指も使うの!』

『…指回んない。』

『…この後、お前だけ居残りな。』

凄いスパルタで。

何度彼の鬼のベースレッスンから

逃げ出そうとして捕まったことか。

それでも、

『―――できた!3フィンガー奏法!』

私がそう言うと彼は

満面の笑みで言うのだった。

『やったな志穂。――――』
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