ライ【完】
「はい。」

台所から少年くんは水の入ったグラスを

2つ持ってきてくれた。

私の前に手に持ってた片方を置いてくれる。

「ありがと。」

「ん。俺もグラス借りちゃった。」

「いいよ。好きなの使って。」

私はグラスを手に取ると

水を一口飲んだ。

「君、これからどうするの?」

「どうするって…バイトする。」

「そっか。」

「お姉さん大学生だよね?」

「うん。」

「お姉さんもバイトしてるの?」

「してるよ。近くのコンビニで。」

そう答えると

「そっか。」

と少年くんは何かを考えているようだった。

というか、ずっと思ってたんだけど…

「ねぇ、お姉さんって言うのやめて。なんか恥ずかしい。」

私は少年くんに申し出た。

少年くんは困ったように

「じゃあ、何て呼べばいい?」

と聞き返す。

「志穂でいいよ。」

私は答えた。

「志穂さん。」

「そんな、さん付けしなくていいから!どうせ2つしか変わらないし。」

私がそう言うと少年くんは

じゃあ志穂って呼ぶと照れくさそうに言った。

「私は何て呼べばいい?」

「ん?俺?」

「そう。君の名前は?」

この時少年くんは

ただ自分の名前を言っただけなのに、

それが今となっては

一番印象深い思い出となってしまった。
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