見えないなら繋いで・大学生編
彼氏の憂鬱
春。桜の舞う季節。
新しい季節というだけでわくわくするけど、やっぱり春は特別な気がする。

というのも

大学生になりました。

目に見えるもの全てが真新しくどきどきする。
高校とは全然違う。授業の長さはちょっとしんどいけど、自分の学びたいことを学べるってそれだけで乗り切れる。

あと一つ、本音を言えば。


「真壁くんが同じ大学だったらなぁ」
「そんなこと言っても意味ないでしょ」
「そうなんだけど…」

真壁くんは、私が同じ大学だったらって、少しも思わない?

なんて聞けるわけもなく。
目の前のグレープフルーツジュースに口をつけた。

大学に入学して一週間。
ようやく訪れた週末に、卒業してから初めてのデートに来ていた。
お昼を食べて少し買い物がてら歩いたあと、休憩に入ったカフェの中で二人席に向かい合って座っている。

「あ、真壁くんサークルとか入るの?」
「あぁ」
「え、何するの?」

そう聞くと真壁くんは少し間を置いてから言った。

「…フットサル」
「えっ!意外!」
「だろうね」

そりゃだって高校三年間ずっと帰宅部だった真壁くんがまさかスポーツ系のサークルに入るなんて。

「どうして急に?」
「頼まれた。中学一緒の奴がいて、どうしても人数集めたいからって」
「そっかー…」
「神月さんはまたバレーやるの」
「んー迷ってるんだよねぇ、バレー部あるんだけど、けっこう熱心なクラブらしくて…バイトもしたいし、もう少し別のサークルも考えてみようかなって」
「…………」

勧誘でたくさん渡されたチラシを頭の中に思い浮かべながらどうしようかと考える。
せっかく大学生になったから、やったことのないサークルに入るのも面白そうだと思っていた。

「授業の履修とかもう組んだの」
「あ、それは大体終わった!私、教員免許取りたいから必然的にけっこう決まってくるんだよね」
「体育の?」
「うん、やっぱり分かった?」
「いや、分かるでしょ」
「へへ」

少しでも真壁くんが私のことを分かってくれるのが嬉しい。
まだまだ付き合い始めだけど、少しずつでも距離が縮まっているのかと思うと何より嬉しくなる。

「真壁くん」
「なに」
「…また、デートしようね」

少し前のめりになってこっそり囁くように言うと、真壁くんは一瞬目を丸くしてからふいと顔を逸らした。

「…いちいち言わなくても誘えばいいでしょ」
「まだ予定分からないからとりあえず言いたかったの」

真壁くんは顔に手を当てて「はー…」とため息をついた。
何かまずいことを言ってしまっただろうか。

「まだ時間ある?」
「え、うん、今日は何時でも大丈夫」
「……じゃあ行こう」

そう言って真壁くんは早々と席を立つと会計を済ませて外に出る。
追いかけるように外に出ると真壁くんは次の目的を持っているようでいつもより少し早めに歩き出した。

「真壁くん、どこ行くの?」
「付いてくれば分かる」

真壁くんはそれから行き先については何もいわず、しばらく歩いた先に見えてきたのは2階建の小綺麗そうなアパートだった。

「真壁くん、ここって…」

声をかけるも真壁くんは何も言わずに2階に上がり、突き当たりの部屋のドアの前で立ち止まると鍵を開けた。

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