イケメン小説家は世を忍ぶ
身体が密着してるし、石鹸のいい匂いも漂ってきて、私は硬直状態。

「スミマセン。……センセイ、オモイデス」

ぎこちない態度で桜井先生にそう告げると、彼は楽しげに形だけの謝罪の言葉を口にした。

「これはすまない。ちょうどいい物置きかと思った」

桜井先生はスッと私から離れると、リビングのすぐ隣にあるキッチンに向かう。

その姿を目で追いながら、絶対さっきのは嫌がらせだと思った。

私、小さいからって馬鹿にされてない?

桜井先生って性格悪いのかも。

そんな評価を心の中でしていると、彼に声をかけられた。

「何か飲むか?」

桜井先生が戸棚から紅茶の缶を手に取る。その時、彼の右手のテーピングに気づいた。

「……先生、怪我をされてるんですか?私が淹れます!」

そう申し出ると、早足でキッチンへ行き、先生の手から缶を奪う。

「ポットとカップ、適当にお借りしますね」
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