イケメン小説家は世を忍ぶ
「もしかして……結衣?久しぶりだね?いろいろ話したいけど、時間がなくてね」

そう言って桜井先生はチラリと腕時計に目をやると、私の髪を一房つかんでチュッと軽く口付けた。

え?

先生……一体何のつもりで?

ビックリして桜井先生を凝視すると、彼は私の目を見つめたまま名残惜しそうに私の髪から手を離した。

それから私の頭をポンと叩くと、連れの男性に目で合図をしてラウンジを後にする。

一瞬の出来事に呆然とする私。

「いや~ん、私もあんないい男に髪さわられてみたい~。でも、英語話してたってことは桜井先生じゃなかったってことかしら?」

雅柚子先生が、唇に手を当てながら小首を傾げる。

あっ、桜井先生は私が『英会話の先生』って言ったから合わせてくれたんだ。
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