イケメン小説家は世を忍ぶ
それでも、何かをせずにはいられなかった。

タクシーが先生の自宅前に停車すると、私は支払いを済ませてタクシーを降り、いつものようにインターホンを押した。

だが、何度押しても応答はない。

チラリと腕時計に目をやれば、午後六時前。

「佐代さんもいないのかな?」

買い物?

ひょっとして桜井先生はもうここには戻って来ないんじゃないだろうか?

そんな考えが頭を過るが、玄関前で先生が帰ってくるのをじっと待つ。

桜井先生が姿を消したならそれでいい。

無事に逃げて欲しいって思う。

ほんの数日だったけど、出会ってしまった以上他人とは思えない。

腕時計をじっと見ていると、何かが私の足首をペロッとなめる感触が……。

「ぎゃっ‼」
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