イケメン小説家は世を忍ぶ
「お仕事はいつもここでされてるんですか?」

「二階の書斎ですることもあれば、リビングやテラスでする時もある。その時の気分次第だな。お嬢ちゃんは飲まないのか?」

桜井先生はパソコンの画面から顔を上げ、チラリと私を見る。

……私の呼び名はそれで決まりなんですか?

落ち着け、結衣。相手は大先生だ。

こめかみがピクピクなりつつも、私は努めて穏やかに返した。

「私は客ではありませんから。それで、朝倉からは至急とのことでこちらに伺いましたが、具体的に何をすればいいでしょうか?」

「俺が小説を口述するから、お嬢ちゃんにはそれをタイプしていって欲しい」

口述タイプ……?そんなの新人の私に出来るだろうか?ブラインドタッチもできないんだけど……。

「……わかりました。今からやりますか?」

「そうだな。早速始めてもらおうか。締め切りもあと一週間だし」

桜井先生は自分が座っているソファの横をポンポンと叩く。

ああ、ここに座れってことですね。
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