イケメン小説家は世を忍ぶ
「悪いがお嬢ちゃんのようないい加減な人間に口述タイプは頼めない。それに、俺の家に来るなら予め何時ごろに着くとか電話を入れるのが普通だろ?社会人としても落第だな。朝倉社長には締め切りを遅らせるように俺から頼むから、もう君は帰れ」

冷たく言い放つと、桜井先生は顎でドアの方を示した。

悔しかったが、言い訳も反論も出来なかった。

「……すみません」

ポツリと呟いて椅子から立ち上がると、リビングを出て桜井先生の家を後にする。

「一体私は何しに来たんだろう」

桜井先生にムカつくことはあるけど、彼の言うことは間違っていない。

新人ってことに甘えていたのかもしれない。しかも、編集者じゃなくて、普通の事務的な仕事が出来ればいいと思ってた。

先生にしてみれば、新人なんて関係ない。編集者として使えるかどうかだ。

腕時計にチラリと目を向ければ、午前十一時過ぎ。

このまま出版社には戻れない。
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