イケメン小説家は世を忍ぶ
桜井先生のあの蔑むような目が頭から消えなかった。

「悔しい。今の自分には何にもない。でも、このまま諦めて帰っていいわけない」

彼に馬鹿にされたし、私の意地もあったかもしれない。それに何よりも、病気の伯父さんの役に立ちたかった。

伯父さんはいつも私に優しくて、私の良き相談相手。就職のこともそうだけど、いつだって私を助けてくれる。

今度は私が恩返しする番だ。

それに、伯父が他のベテランの社員ではなく、あえて新人の私に先生のことを頼んだのには何か理由があるような気がした。

とりあえずメールで伯父さんに状況を伝え、武内さんにはまだ帰れないと電話をいれる。

伯父さんの足元にも及ばないけど、桜井先生のお仕事の手助けは出来るようになりたい。

それには、桜井先生の作品を知らなければ……。

近くの本屋を探して桜井先生の小説を買う。

先生の最新刊は人気なのか入り口正面にある平台に山積みされていてすぐに見つかった。

他の作品も最新刊の横に並んでいて、全部で三冊購入。
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