イケメン小説家は世を忍ぶ
俺は自分の人指し指を結衣の唇に当てた。

「熊……?」

結衣がギョッとした顔で俺を見る。

「冬眠から目覚めて餌を探しに出てくるからな」

結衣の顔を見て笑うのを我慢しながら、淡々とした声で説明した。

「冗談ですよね?」

顔を引きつらせる結衣を俺は真顔でからかう。

「冗談と言えたらいいが……。お前、熊……倒せるのか?」

「た、倒せるわけないじゃないですか……」

小声で結衣はブンブンと横に首を振る。

「だったらここで静かにしてい……」

俺が言い終わらないうちに、結衣はギュッと胸に抱きついてきた。

「お前って意外と積極的なんだな。この状況で男を誘うなんて」

「な……何勘違いしてるんですか?熊が怖いだけです!」
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