イケメン小説家は世を忍ぶ
激しく動揺した結衣はパッと俺から離れようとするが、俺は逃がさなかった。

両腕に力を入れて彼女を抱き締める。

華奢なその身体。

あまり力を入れると壊してしまいそうで少し力を緩めたが、腕の中で結衣が暴れ出す。

「じっとしてろよ」

女を口説くような甘い声音で囁くと、結衣の身体がビクッと震え、抵抗をしなくなった。

どうやら優しく言う方が結衣には効果があるらしい。

「ちょっと……ケント。離してくださいよ」

結衣は声を潜め、困惑顔で懇願する。

「『殿下』って呼んだ罰だ。大人しくここで寝るんだな。俺は疲れた。寝る」

俺の言葉に黙り込む結衣。

目を軽く閉じ寝た振りをしていると、最初はもぞもぞと動いて落ち着かない様子だった彼女だが、しばらくして規則正しい寝息が聞こえてきた。
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