イケメン小説家は世を忍ぶ
人気作家なのも頷ける。

それに、実際に読んでて気づいたけど、どの作品にも官能的なシーンはなかった。

高校生でも安心して読める作品だ。

口述タイプで桜井先生が私が赤面するような言葉を口にしたのは、彼が私を試すためだったんだと思う。

もっと先生の本を読みたいと思った。

最後の本を読み終え本を閉じると、見知った顔が目に映った。

「……桜井先生?」

呆然としながら呟く。

桜井先生が私の隣の席にいて、テーブルに片肘をつきながらじっと私を見ていた。

……嘘。いつからそこに?

「てっきり帰ったかと思った。ここで読書とはよほど暇なんだな」

桜井先生が、嫌味ったらしく言う。

「違います!先生の小説を読んで先生のことをもっと知ろう……‼」

椅子から立ち上がって弁解しようとしたら、桜井先生がジャケットのポケットからスッとペンを取り出し、左手で器用に私の本にサインをした。
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