イケメン小説家は世を忍ぶ
「それで、俺の小説はどうだった?」

口角を上げながら本を左手でスッと私に差し出す桜井先生。

彼の左手の小指には古そうなサファイアの指輪がはめられていた。

先生はアクセサリーが好きなのかと少し気になったけど、本の感想を言いたくてすぐに指輪のことは忘れた。

「どの作品も素敵な作品ばかりでした。特に最新作の『君といつまでも』は高橋准教授の不器用な優しさにキュンとなって……美優とのふたりの今後をもっと知りたいっていうか……続編があったらいいなあ……なんてずうずうしいことを思ったりして……。私もこんな風に愛されてみたいって思いました」

胸に手を当て、興奮しながら桜井先生に感想を長々と伝える。彼はそんな私を止めることはなく、興味深げにじっと見ていた。

「先生、続編はないんでしょうか?」

期待の眼差しで桜井先生を見れば、彼は「さあ、どうだろうな」と言葉を濁した。

「そんなことより腹減った。お前も付き合え」

先生はぶっきらぼうにそう言うと椅子から立ち上がり、スタスタと歩き出す。
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