イケメン小説家は世を忍ぶ
「何で私が草むしり……」

庭の隅でしゃがみ込みながら私はぼやく。

これも編集者の仕事なの?絶対に違うよね?

そんな私の声が桜井先生の耳に届いたのか彼はニヤッと笑った。

「今まで来ていた庭師が病気で倒れて困っていたんだ。草むしりならお嬢ちゃんでもできるからな」

桜井先生は私に向かってそう言うと、長い脚を組みながら優雅な仕草でコーヒーを口に運ぶ。

私がここに呼ばれた一番の理由は、口述タイプのためではなく草むしりのためではないのだろうかと疑いたくなる。

それに、小説家ってもっと切羽詰まった様子で書いてる印象なんだけど、こんなのんびりしてていいの?

締め切りまであと六日しかないんですけど……。

「桜井先生、最後の章がまだですけど、そんな悠長にコーヒーなんか飲んでていいんですか?」

締め切りが心配で声をかけるが、桜井先生に冷ややかに返された。

「誰に向かってものを言っている?」

……なんなのよ、その俺様発言。
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