イケメン小説家は世を忍ぶ
ここで泣いてる場合じゃない。

私がセピオンを出ないとケントにもセシリアさんにも迷惑がかかる。

ケントのお荷物になるのはもう嫌。

「早く……ここを出なきゃ」

涙を手で拭うと、自分の身体にムチ打ってベッドから出て、セシリアさんがくれた服に着替える。

少しサイズは大きいが、贅沢は言えない。

手櫛で髪を整えると、ドアを開けてケントの部屋を出た。

ドアの外には三十代くらいのスーツ姿の細身の男性がいて、私に英語で声をかけてきた。

「こちらです」

男性の後をついて長い廊下を足早に歩き、迷路のように複雑な城の中を移動する。

途中ケントに会ったらどうしよう……とハラハラしたけど、その心配は杞憂だった。
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