イケメン小説家は世を忍ぶ
「わかりました。何かあれば私もメールします」

手短に返事をして電話を切ると、オフィスにいる面々に伝えた。面々と言ってもふたりしかいないのだけど。

「武内さん、大杉さん、社長がインフルエンザで一週間は休むそうです。私はこれから桜井先生のところに行ってきます」

私が机の下に置いてあるバックを手に取ると、前の席にいる大杉さんがニヤニヤ顔で声をかけてきた。

「社長って、全然桜井先生のこと教えてくれないんだよねえ。結衣ちゃん、戻ってきたらいろいろ教えてよ」

大杉さん……大杉拓磨さんは、桜井先生に憧れて去年大手出版社からうちの出版社に転職してきた。私より三つ年上で仕事が早くて有能だけど、私の肩や手にやたらと触れてくるので彼は苦手だ。

「ははは……」

私は笑って誤魔化す。

伯父から箝口令が出ていて話せるわけがない。

インフルエンザで辛いのに、そこを気にするってことは桜井先生が自分のプライバシーに関してよほど神経質なんだろう。
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