イケメン小説家は世を忍ぶ
「結衣ちゃん、他の仕事はこっちでフォローするから」

ニコッと微笑むのは、私の席の隣にいる武内幸子さん。年は五十くらい。

伯父さんの大学時代の後輩で、経理や総務関係の仕事も彼女が担当している。

私は彼女の下についているのだけど、研修中の私に出来る仕事なんてコピー取りと掃除くらいだ。

「武内さん、すみません」

ペコリと頭を下げると、ポケットに入れておいたスマホがブルブルと震えた。

ポケットに手を突っ込んでスマホを取り出して確認すると、伯父がメールで桜井先生の住所と連絡先を知らせてきた。

「じゃあ、行ってきます」

ポケットにスマホを無造作に入れると、飛び出すようにオフィスを出て電車を乗り継ぎ、桜井先生の家に向かう。

先生の自宅は朝倉出版から電車で三十分、駅から徒歩十五分ほどの広尾の閑静な住宅街にあった。

高さ二メートルはありそうな白い壁に囲まれた、これまた真っ白な洋館。ドアや窓は緑でおしゃれな感じ。

表札はないけど、ここで合っているはず……。
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