イケメン小説家は世を忍ぶ
朝倉さんにももう手伝いは入らないとメールで伝えたのだが、彼は【結衣は君のいい刺激になるよ】とすぐに返信してきた。

何がいい刺激だ?と不思議に思っていたが、カフェで偶然俺の小説を読み耽っている彼女を見つけ、もう少し様子を見てみようと思った。

カフェに行くのは小説のネタ探しのためで俺の日課。

人と深く接するのを避けている俺は、カフェで通りを歩く人や楽しげにお喋りする人を眺め、人間観察している。

仲のいい老夫婦、いちゃつくカップル、お喋りに興じる女子高生……。

で、目の前にいるのがさっき俺が追い払った女。

今書いている小説のラストに行き詰まっていて、何か参考になることがないかと今日もカフェに足を運んだところ結衣がいて……。

彼女が熱心に読んでいるのは、俺の小説。

俺が隣に座っても全く気づくことなく、俺の本を読み進める結衣。

一時間……二時間……三時間……と時が経過しても、彼女は本を読むことを止めなかった。
< 45 / 284 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop