イケメン小説家は世を忍ぶ
ここ最近塞いでいた俺を気にかけていたのか、佐代さんにしては突っ込んだ質問だった。

「ええ。彼女のお陰で小説の神様が降りてきてくれましたよ」

俺は佐代さんを安心させるように微笑んだ。

小説のラストは決まったし、後は自分の中に浮かんでくる映像を文章にするだけ。

「それは良かったですねえ。美味しい紅茶淹れてきますね。お夕飯は炊き込みご飯ですよ」

「それは楽しみだ」

嬉しそうに笑ってモモの顎を撫でる。

しばらくモモとじゃれて遊んでいると、近くの木からガサッという物音がした。

ビクッと警戒するモモを胸に抱き上げ、その木をじっと見据えるとよく知った黒髪の男が現れる。

「こんな時によく猫と遊んでられますね」

その男は眉間にシワを寄せ、咎めるような口調で言った。

「おどかすなよ、ユアン。来るなら玄関から入って来い」
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