イケメン小説家は世を忍ぶ
『セピオンがどうなっても知らないと言うんですね』

どんなに無関心を装っても、自分に嘘はつけない。

自分が生まれ育った国だ。

セピオンが乱れるのに平然としていられるわけがない。

自分の力でどうにか出来るなら今すぐにでも国に戻りたい。

揺れる思い。

「煩い。これ以上、話をしても時間の無駄だ」

ブチッと一方的に電話を切るとスマホの電源を切り、くしゃりと左手で髪をかき上げると、うちの前にタクシーが停車した。

佐代さんと挨拶を交わしてタクシーに乗り込む結衣。

関係のない彼女を巻き込む訳にはいかない。

佐代さんにもどこか安全な場所に避難してもらった方がいいだろう。

結衣の乗ったタクシーを見送る。

スケッチブックを彼女に渡したのは、俺なりのわびだ。

だが、結衣に記念に持ってて欲しいとも思った。

これから何が起こるかわからない。

酒でも飲んで酔いたい気分だった。
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