イケメン小説家は世を忍ぶ
だが、この状況だと呑気に酔い潰れる時間はなさそうだ。

ここでのんびり暮らしていられるのもあとわずかかもしれない。

いつ死ぬかもしれない。

そう思うと、パソコンに向かわずにはいられなかった。

部屋の中に戻り、執務デスクに座ると、ノートパソコンを立ち上げる。

「小説を書くのもこれが最後かもしれないな」

右手の火傷の跡に触れるが、もう不思議と痛みはない。

自分の手で完成させて、朝倉さんにあとを託す。

小説はもう頭の中では出来上がっている。

それを文章にすればいい。

情景を思い浮かべながらタイピングしていく。

妥協は許さない。

読者が読みやすいよう、リズムがあって流れるような文にする。

どれくらい作業をしていたのだろう。

小説のラストを書き終えた頃には、空はすっかり明るくなっていた。
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