イケメン小説家は世を忍ぶ
「そうですね。俺も佐代さんに勝てたことはありません」

俺は茶目っ気たっぷりに言うと、フッと笑った。

それからいつものように朝食を食べ、ダイニングからリビングに移動してスマホの電源を入れると、二件着信があった。

朝倉さんとユアンからだ。

まずは朝倉さんに折り返し電話をかける。

『……はい?』

電話に出る朝倉さんの声は鼻声だった。

「俺です。小説は何とか仕上がりました。後は朝倉さんに委ねます」

細かい修正はあるだろうが、それは彼の判断に任せる。

俺の作風を一番理解しているのは朝倉さんだから、そこは彼を信頼している。

もうこうして彼と連絡も取れなくなるかもしれない。

『小説のことより……ゴホッ、君は大丈夫なのか?さっきニュースで君の声明が報道されて……ゴホッゴホ……いた。もう……今の生活には戻れない……ゴホッ……ぞ』
< 88 / 284 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop