俺に彼女ができないのはお前のせいだ!
☆
「本当、すんません。2人きりで会うの、これで最後にしませんか?」
バイト終わり。
エナさんに誘われて向かったのは、駅前のファミレス。
正面で紅茶にミルクをかきまぜているエナさんは、驚いた顔をした後、俺をじっと見つめた。
「そっかぁ。私なんて良一くんからしたら、おばさんだもんね」
「違います。エナさんは、その、仕事できて、いろいろ教えてくれて、感謝してますし、尊敬してます」
「……じゃあ。どうして?」
いつも気持ちを揺さぶってくる、寂しげな瞳が向けられる。
負けずに俺はエナさんをしっかりと見すえて伝えた。
「俺、去年、親父……父親が死んだんです」
「え」
「だから、死んだ弟に似てるって言われて、なんていうか、エナさんのこと気になってたんですけど。
でもそのことと俺をホテルに誘ってきたことが結びつかなくて。どうしても納得できなくて」
死んだ弟に似ている男と、体の関係を持ちたいと思うのだろうか。
カツヒコさんを『死んだお兄さんに似てる』と言い、口説こうとしたこともある。
エナさんのその言動が、俺には理解できなかった。
お待たせしましたー、とエナさんの料理が運ばれてくる。
俺は母の料理が家にあるため、飲み物だけを注文していた。
ストローで氷の奥にある甘みをすすった。
ズズッ、と液体と空気が混ざり合わずに音を鳴らした。
「……ぷっ。あははっ」
その音の間に聞こえたのは、エナさんの明るい笑い声だった。