俺に彼女ができないのはお前のせいだ!







「本当、すんません。2人きりで会うの、これで最後にしませんか?」



バイト終わり。


エナさんに誘われて向かったのは、駅前のファミレス。



正面で紅茶にミルクをかきまぜているエナさんは、驚いた顔をした後、俺をじっと見つめた。



「そっかぁ。私なんて良一くんからしたら、おばさんだもんね」


「違います。エナさんは、その、仕事できて、いろいろ教えてくれて、感謝してますし、尊敬してます」


「……じゃあ。どうして?」



いつも気持ちを揺さぶってくる、寂しげな瞳が向けられる。


負けずに俺はエナさんをしっかりと見すえて伝えた。



「俺、去年、親父……父親が死んだんです」


「え」


「だから、死んだ弟に似てるって言われて、なんていうか、エナさんのこと気になってたんですけど。
でもそのことと俺をホテルに誘ってきたことが結びつかなくて。どうしても納得できなくて」



死んだ弟に似ている男と、体の関係を持ちたいと思うのだろうか。


カツヒコさんを『死んだお兄さんに似てる』と言い、口説こうとしたこともある。



エナさんのその言動が、俺には理解できなかった。



お待たせしましたー、とエナさんの料理が運ばれてくる。


俺は母の料理が家にあるため、飲み物だけを注文していた。



ストローで氷の奥にある甘みをすすった。


ズズッ、と液体と空気が混ざり合わずに音を鳴らした。



「……ぷっ。あははっ」



その音の間に聞こえたのは、エナさんの明るい笑い声だった。


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