今夜、愛してると囁いて。
「うつるから、早く帰った方がいいよ」
「俺は平気ですよ」
伊月君は若いから、こんな貧弱なオバサンの風邪の菌なんか取り込んでもうつることはなさそうだけど。
どうにか他に理由を見つけて彼を追い返そうと鈍い思考を働かせようとすると、お腹からぐぅと小さな音が聞こえた。
「香澄さん、ご飯は?」
「……食べてない」
あたしが小さな声でそう言うと、伊月くんは首をかしげて自分を指さした。
「俺、お粥くらいなら作れますよ?」
「お粥……」
確かにお腹は空いてるし、自分でこれから作る気力があるかと聞かれたら答えはノーだ。
少し考え込んで、小さく頷くと伊月くんはお邪魔しまーすと軽い声を響かせて靴を脱いだ。
利用するみたいで申し訳ないけど、お粥を作ってもらったらポカリとか諸々のお金を渡してすぐに帰せばいいだろう。