今夜、愛してると囁いて。
三話
I love youが聞こえない
風邪から完全復活したあたしはいつも通り仕事をしていた。今日はキッチンの人が有給を取ったために、代わりに私がキッチンに入って調理をしている。
伊月くんとの関係を持ったあの日から、彼とシフトが一緒になっても仕事中はできるだけ喋らないように避けていたんだけど。
「香澄さんってキッチンもやるんですね」
店内からお客さんがいなくなって、すっかり手持ち無沙汰になったらしい伊月くんがふらりとキッチンに入ってきた。
「……一応、正社員だから。一通りできるようにならないと」
「ああ、なるほど。料理とか得意なんですか?」
「うーん……人並みにできるくらい?」
洗い終わった食器類を棚に戻しながら適当に返事をする。
腕を下ろすと、制服の裾を掴まれていたようでつん、と布が引っ張られる感覚がして振り向いた。
「今日、香澄さん家行ってもいいですか?」
「え?」
伊月くんが可愛らしく首をかしげる。
自分の顔面偏差値をよく知ってるがゆえ、この男は本当にたちが悪い。
「香澄さんの手料理、食べてみたいです」
ダメに決まってるでしょ、そう言おうとして口を開きかけたとき、伊月くんがにやりと笑った。