今夜、愛してると囁いて。
「伊月くん、もう退勤の時間だよね?ごめん、ほんとに仕事増やして」
「あ、ほんとそれは全然気にしないでください。それじゃあ、タイムカード切ってきますね」
伊月くんが事務所の方に消えていったのを見届けて、あたしは深くため息をついた。
「何、動揺してるのよ……」
以前から何度も言っているがあたしと伊月くんは恋人ではない。
彼の口から恋人の有無を聞いたことはないし、あたしのことを聞いてくるわりには自分のことは話したがらない。
もしかしたら、彼女の存在を隠したかったのかも――
「あー、伊月くん。外で女の子が待ってたよ」
幸ちゃんの声にあたしはビクリと肩を揺らした。
食洗機から上がってきたグラスや皿を拭きながら横目で声の方を見ると、制服から私服に着替え終わった伊月くんが更衣室から出てきているところだった。