今夜、愛してると囁いて。
落ち込んだ時、嫌なことがあった時。
20歳になった頃からよく通っていた居酒屋に足を踏み入れれば、店長の奥さんが「あら!」とあたしに気付いて駆け寄ってきた。
「久しぶりね香澄ちゃん!あらやだもう、すっかり綺麗になって〜」
「お久しぶりです」
仕事が変わってから気持ちが安定していたのでここ何年もお酒に頼らない生活をしていたのだ。
「ちょうど、健人くんも来てるわよ?」
そう言って嬉しそうにカウンターに案内してくるおばさんに、あたしは足を止めて聞き返した。