今夜、愛してると囁いて。
「すんの?結婚。」
あたしが答えようと口を開きかけると、自分から聞いてきたくせに言わせないとでも言うように唇を伊月くんのそれで塞がれた。
「誰にでも尻尾振ってんじゃねえよ」
怒ったような、悲しんでいるような、色んな感情が混ざったような苦しそうな声にあたしはぽかんと瞬きをした。
「香澄」
初めて敬称もなく呼ばれた自分の名前に思わず肩がすくむ。
いつもの優しい伊月くんも、無邪気に笑う伊月くんも、ここにはいない。
「もう俺じゃなきゃ満足できねーだろ?」
吐き捨てるように笑った伊月くんに、背中がぞわりと粟立った。