今夜、愛してると囁いて。
「あっそ」
泣いているあたしに向けて、伊月くんは床に落ちたクッションを投げつけてきた。
あたしを見下ろすその目は酷く冷たいものに感じる。
「泣くほど俺が嫌いかよ」
「え……?」
低く響き渡った声に、あたしは涙を止めて聞き返すけど彼を視線に捉えた時にはもう寝室を出て玄関に向かっているところだった。
「戸締りはちゃんとしてくださいよ。それじゃあ」
いつもの"またね"はなくて、伊月くんは振り返りもしないで淡々とそう告げて部屋を出ていってしまった。
待って、と彼に向けて伸ばした手は虚しく空を切って、ぼすん、とシーツの上に落ちた。