今夜、愛してると囁いて。


「でも……」

「あ、私も閉店作業手伝うんでお気になさらず!遠慮なく上がっちゃってください!」


そう言って店長と幸ちゃんにグイグイ背中を押されて事務所の方まで押し込まれた。

仕方なくあたしは涙を指で拭って、事務所の中に入る。


タイムカードを切って、事務机のそばにある椅子に座ると一気に倦怠感が襲ってきた。

壁に貼ってあるシフト表を確認して、あたしは思わず1人で顔をしかめた。


「明日、夕方は伊月くんか……」


あたしが勝手に1人で気まずくなっているだけで、伊月くんは仕事をする上では今までと態度は変わらない。

あたしも気にせず仕事をすればいいだけなんだけど。


「……着替えよう」


着替えの入ったトートバッグと、その他の荷物を入れているバッグを持って事務所を出て、その隣にある女子更衣室に入る。

今日はスーパーに寄って帰らなきゃなあ、なんてぼんやり考えながらいつもよりゆっくりした動作で着替えに取り掛かった。


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