今夜、愛してると囁いて。
閉店作業をする従業員達に挨拶をして、店を出た。
この辺りは街中から少し外れているので、比較的空気が澄んでいる。虚しくなるほどに綺麗な夜空を見上げて、あたしは深く息を吐いた。
さすがにもうこの時期になると吐いた息が白くなるほど気温は低くはないが、それでも肌が突っ張るくらいには空気が冷たい。
墨汁を垂らしたように真っ暗闇の中、チカチカ瞬く星が滲んできた。あたしはあー、とかうー、とかうめき声を上げて視線を足元に落とした。
「香澄さん」
ふと、後ろから名前を呼ばれて反射的に振り向いて、あたしは目を見開いた。
「……い、」
伊月くん。そう言いかけて、あたしは口を閉ざした。
今日彼はシフトに入ってなかったはずだけど、どうして店の近くにいるのだろう。
それに、長い時間待っていたのかコートの隙間から覗く指先は真っ赤に色づいていて、耳もまた同様だった。