今夜、愛してると囁いて。
「そろそろ、香澄さんが仕事終わる頃だと思って」
ぽつり、小さな声でそう言った彼の手があたしの肩に触れて、あたしは驚きと行動の意図がわからない不安で身を固くした。
「……この間は、すみませんでした」
恐る恐る伊月くんの方に身体を向けると手が離れていく。
あたしはほっと胸を撫で下ろして、目の前の彼を見上げる。
「伊月くん?」
なぜだか、酷く泣きそうな顔をしていた。
「もうやめにしましょう」
伊月くんの掠れた声が冷たい空気を震わせる。
あたしは瞬きをして、彼の言葉を頭の中で反芻し――意味を理解して、心臓が爆発したのではないかと錯覚するほどに跳ねた。
「自分から誘っておいて終わらせるとか自分勝手かもしれないですけど」
「どうして?」
思わず口をついて出たのは否定でも肯定でもなく、疑問の言葉だった。
伊月くんは白い頬にまつ毛の影を落として、口を閉ざしてしまった。