今夜、愛してると囁いて。
「おっほん」
背後から聞こえた咳払いに、伊月くんはピタリと動きを止めた。あたしは苦笑いで彼の背後を指さすと、おそるおそる振り向いた。
「……えーと、おめでとうございます?」
閉店作業を終え、着替え終わってこれから帰宅しようとしていたらしい店長と幸ちゃんがほんのり頬を赤く染めてお店の前に立っていた。
幸ちゃんのぱちぱちと小さな拍手が響いてあたしは自分の顔を手で覆った。
「あ、ども。この通り俺と香澄さん付き合うことになりました」
「あら、ようやく。良かったわね」
気を取り直したらしい店長が朗らかに笑い声を上げた。
伊月くんと幸ちゃん、それからあたしまでもがようやく?と首をかしげた。
「おばさん伊達に50年も生きてないわよ〜。伊月くんが香澄ちゃんのこと好きなのはとっくにわかってたわ」
だからシフトとかも多く一緒にしてたのに、なかなかくっつかないんだもん、なんて笑う声。
思わず伊月くんと顔を見合わせると、彼も気付かれていたとは思っていなかったのか同じような顔をしていた。