ウェスター国戦師(いくさし)の書。~優しい追憶~
確信があったのだ、シンラはお母さんを慕っている、という。


ただそれを口にするつもりは、今の今までなかった。


卑怯な気がしたし、……彼がかっこつかなくなるというか、彼の体裁を潰す気がしたから。


でも、こうなった以上仕方ないだろう。


「覚えてる?

まだ、私が城に来てすぐの頃。

シンラ、高い熱出し確信があったのだ、シンラはお母さんを慕っている、という。


ただそれを口にするつもりは、今の今までなかった。


卑怯な気がしたし、……彼がかっこつかなくなるというか、彼の体裁を潰す気がしたから。


でも、こうなった以上仕方ないだろう。


「覚えてる?

まだ、私が城に来てすぐの頃。

シンラ、高い熱出したことあったでしょ」


「……それが?」


「あの時……城もバタバタしてたし、私もまだあまり皆と馴染めてなかったし。

居場所がなかったのもあるし、シンラしか頼れなかったから。

すっごい心配で。

医師達に任せとけばいいって聞いてたけど……傍についてたの」


「……そりゃどうも。

で、だから?」


「すっごい呼吸荒かったしね、顔真っ赤なのに、なかなか汗かかないし。

でも点滴してるんだし、これ以上何もしてあげられないでしょ。

ほんとに大丈夫かどうか心配になって、顔覗きこんだのよ。

そしたら、シンラ唸りだしたから……」


当時を思い出す。


あの時は……なんとかシンラを元気づけたかった。


楽にしてあげたかった。


心配、というより……慈しむ気持ちだった。


そんな思いが言葉になった。


『……大丈夫、すぐよくなるから。

安心してゆっくり休んで。

元気になったら、また、いろいろ……構ってよ。

ね?』


点滴には、体を休める薬が入ってるだろうし、ただでさえ高熱だ。


シンラは覚えちゃいないだろう。


けど、自分のその言葉を聞いた時。


彼はぼんやり目を開けて、目の前の自分を見て……こう言った。


『……かあ……さん……?』


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