ウェスター国戦師(いくさし)の書。~優しい追憶~
「……ぃたっ。

もう!

何よぉ」


振り向けば、モモがシンラにはたかれて、睨み返していた。


「王様が復帰されたら。

俺のパートナーですって紹介するんだからな。

そのつもりしとけよ!」


両親を覚えていない彼女の、どことなく羨望の眼差しを感じたのだろう。


気ぃ遣ってやがる。


まぁ、だからこそ皆の兄貴分、なんだけど。


「……さっきは、悪かったな。

ちょっと……いやかなり。

酷いこと言った。

ごめん」


既に目を潤ませていた彼女だったけど、奴のその言葉で泣いた。


「も~……二人とも。

あんまり心配させないでよね。

俺、基本喧嘩勘弁だから……」


イサキが言うとシンラは、かつて自分と一緒に親父にされたように。


モモとイサキ、一人ずつ片腕で同時に抱きしめた。


「ちょ、シン兄、痛いって~……!」


そう言うイサキは、もちろんモモも、どことなく嬉しそうで。


「……妬いてますか?」


ウッキーがボソッと聞いてきたから、感じたままを答えた。


「ん~ん。

俺の兄貴は皆の兄貴分だし、俺の親父は皆の親父分、なんだ。

それは俺の誇り、なんだぜ?」


その答えにウッキーは、眼鏡の奥の切れ長の目を丸くして。


口元に笑みを浮かべて言った。


「王って……たまに、すごく稀に。

ものすごい寛大というか、貫禄というか……懐深かったりしますよね」


馬鹿にされたのか誉められたのか、いまいち分からない辺りやっぱ自分は馬鹿なのか。


分からないなりに答えておいた。


「おうよ!

皆が笑ってられたら、それが一番いいじゃん!」


……陽はだいぶ傾いていた。


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