ウェスター国戦師(いくさし)の書。~優しい追憶~
結果は容易く想像出来たし、実際そのとおりになった。


大将に宥められながら、ぷくーっと頬を膨らませて戻ってきたモモ姉に、二人で爆笑した。


シン兄の嘘は、誰かの誹謗中傷でもなく他愛のないものだった。


だけどモモ姉、本気で悔しかったらしい。


「も~~~……みてなさいよ!」


捨て台詞を残して、自室の方に引っ込んでしまった。


再びシン兄は武具の手入れ、自分は漫画の続きに目を落としてたんだけど、5分ほどしてモモ姉がやって来た。


『シンラ、イサキ、大変ー!

天気予報で言ってたけど、夜から槍が降るんだってー!』


……え、えぇと、何を仰ってはるんでっしゃろか……?


うぅん……まあたしかに、「雨が降っても槍が降っても」って言葉、あるけどさぁ。


力自慢したがるお馬鹿な野郎が、城に反乱起こしたりなんてことも稀にあることはあるけどさぁ。


だからって、槍が雨のごとく降るかー!?


なんて言うか……嘘のセンス皆無だな……ってひくついていると、隣のシン兄はにっこり笑って言った。


『じゃあ、俺からお前に。

重いんだろな、その槍』


いきなりそう返されて、モモ姉は目をパチクリさせた。


『槍が重かったら、どうなる?』


『……?

……??

分かんない。

大事故になる、とか?』


……違うよモモ姉。


槍が重い→重い槍→おもいやり→思い遣り
なんだよ……まあ分からないだろうなあ。


『今言った意味が分かったら、次はもうちょっとお前が期待するようなリアクションしてやるよ』


『……馬鹿にして~……今度はみてなさいよ、ギャフンと言わせるから!』


再びの捨て台詞と共に、モモ姉退場。


『……ギャフンって……今時言うか?

あいつ、ああ見えて俺より年上とか……』


『ああもうギャフンくらい、いっくらでも言ってやるのになあ……ギャフンギャフン、はいシン兄もご一緒に』


『馬鹿言え、それこそ槍を思いきり遠くに投げないと』


『いやぁそれは「投げ遣り」やがな!』


『言うよね~』


『言ったよね~』


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