ウェスター国戦師(いくさし)の書。~優しい追憶~
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今でこそウェスター王となったケイゾウだけど、彼との付き合いは長く、かれこれ10年を越える。


出会った時は彼が5歳で自分が6歳、まだお互いやんちゃ坊主だった……って過去形にする必要はない気もする。


彼は現在進行形でやんちゃだ、多分自分も。


彼と自分との出会いは、かなり唐突で物騒だった。


彼は、どこかの村の道場に喧嘩をふっかけ……というか道場破りに、父親同伴……つまりは先代ウェスター王ことイッシン様を連れ出して、快勝してきた帰りだったらしい。


自分の方はというと、あの人に頼まれて買い物に出ていた帰り道だった。


彼は突然に襲ってきた。


後で訳を聞いたら、パッと見で自分のことをなんか強そうな奴と判断したらしく、やりあってみたくなったらしい。


鋭く拳を繰り出され、反射的に避けた。


それで勢いづいた彼は連打を仕掛けてきたんだけど、自分は買い物後だから荷物で両手が塞がってた訳で。


買ったばかりの卵が落ちて割れた。


静かにぶち切れた自分は、防戦一方の姿勢から、荷物をほっぽりだして攻めの体勢に変える。


彼とは十数分ほど取っ組み合い、……まあ多分、自分の方が有利だったとは思うけど。


勝敗はつかないうちに、喧嘩は終わった。


彼の父親が仲裁に入ったからだ。


……十数分はほったらかされてた訳だけど。


その間に、彼の父親は自分の喧嘩っぷりをじっくり観察していたらしい。


彼の父親は、ウェスターの王様だった。


そう紹介された時、思わず 目の前の卵の敵と王様を、何度も見比べた。


つまりは自分が喧嘩してたのは、この国の王子……おおそれたことをした、と子供ながらに瞬時青くなった。


彼の方も負けかけてたから、既に半泣きでバツが悪そうだったけど……。


お前強いな、と素直に感想を言ったら、それだけで機嫌直しやがった。


昔からたんじゅ……まあ、いやその。


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