初めて君を知った日。
本と少年、静かな図書室。
私はその時、ハッとしてカバンから一眼レフを取り出した。
「ね、ねえ瀬尾君」
「?」
「良ければなんだけど、写真撮っていい? きみの」
これだと思うと後には引けなくて、瀬尾君へと強めに出る。
彼はさすがに驚いたようで、目を丸くし頬を赤くした。
眉がゆがんでいたから断られるかと思ったけど、案外うんと頷いてくれたからびっくりした。
「良いの? 本当に」
「うん、どうせすぐに分からなくなってしまうから、きみの好きにして?」
優しい声色とは真逆で、どこか諦めたような口調。
どういう意味なんだろう。
「写真同好会の自習課題に使っても、いい? あ、もちろん顔はなるべく分からないようにするし、全校生徒に公開なんて事はないから!」
「はは、大丈夫だよ。僕はどうすれば良い?」
半ば必死の私に、瀬尾君はノってくれている。
私は普通に読書をしてほしいと伝え、ピントを合わせる。
中途半端な写真は撮りたくない、となぜか変に真剣で微かに聞こえる窓の外の雨音を聴きながら、瀬尾君の横顔をレンズに映す。
「……綺麗」
無意識にそう呟いてしまい、ハッとして口をつぐんだ。
恥ずかしいのか本当に怒っているのか、瀬尾君がムッとした顔をして私の方を向いてきた。
「高畑さんは、変な人だね」
皮肉に聞こえた言葉に、あなたの方がよほど変だよと言いたくなる。
でも、すぅと息を吐いてモデルをこなしてくれる所は、優しさの塊みたい。
儚げな彼の姿を、シャッターを押して撮った。
窓の外の世界と瀬尾君の切ない横顔。
瀬尾君の心境なんて分からないけど、妙にマッチしていて心にくる。
私だけかな。
「ありがとう。とっても素敵な写真が撮れたよ」
「そう」
急に素っ気ない声になり、そっぽを向く瀬尾君。
本当は嫌だったの? そう思い謝ろうとしたら、はぁとため息をつかれた。
「高畑さん。その写真、明日僕に見せてくれない? 今日は良いから、明日ね」
「? 良いけど、」
どうして明日? という疑問が喉元まで出てきて尋ねるのをやめた。
「瀬尾君、明日もここに来る?」
「きっと朝からいるよ。僕は授業に出る時以外はずっとここにいるつもりだから」
「そっか。分かった」
胸の奥で、トクンと鳴る心臓にびっくりする。
また明日も話してみたい、なんて。
結局、1時間ほど何でもない会話をして瀬尾君と別れた。
嘘をついてるようには見えないけど、何が言いたいのか分からない彼の言葉。
変な人だなぁと思いながら、私は帰りの電車の中でも家に帰っても瀬尾君の映った写真を眺めた。
明日も会える。
そんな期待が私の心を静かに踊らせていた。