初めて君を知った日。


「高畑、さん?」


声を押し殺して泣いていたら、昨日聞いた優しい声が耳に響いた。
顔を上げると、写真を手に持った瀬尾君が立っていて一瞬硬直する。

「……何」

さっきあんなに疑いをかけてきたくせに、困った顔で私と目線を合わせて屈むから意味が分からなくなる。


「…………昨日は、雨だった?」

「へ?」

晴れ晴れとした空を見て、写真の中の雨と見比べる瀬尾君。
その時私は、なぜか怖いと思った。


「昨日、は雨だったよ……?」

「……そっか、今日は凄く晴れたね。ごめん。疑ったりして」

瀬尾君は凄く申し訳ないと言いたげだった。
だけど私は、その先を聞けなかった。


「この写真、もらってもいい? それからこの裏に高畑さんの名前を書いてほしいんだ」

「え……名前?」

「うん、お願いしてもいい?」


止まったはずの涙が溢れてきそうになった。
私は大きく頷き、写真の裏にペンで名前を書いた。
それを渡すと瀬尾君は満足そうに微笑む。

「ごめん。僕、人より物忘れが激しいからすぐ忘れちゃうんだ」

笑っている彼は、私に気を遣っているように見えた。

「いや、大丈夫……だよ。私もカッとなってごめん」

「ううん、高畑さんは悪くないから。それじゃあ僕は図書室に戻るね」


ばいばい、と手を振って歩き出す瀬尾君に声をかけることができなかった。
物忘れが激しい、?
本当に、そうなの。分からない。

私は、何をすればよかったんだろう。


< 5 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop