初めて君を知った日。
「高畑、さん?」
声を押し殺して泣いていたら、昨日聞いた優しい声が耳に響いた。
顔を上げると、写真を手に持った瀬尾君が立っていて一瞬硬直する。
「……何」
さっきあんなに疑いをかけてきたくせに、困った顔で私と目線を合わせて屈むから意味が分からなくなる。
「…………昨日は、雨だった?」
「へ?」
晴れ晴れとした空を見て、写真の中の雨と見比べる瀬尾君。
その時私は、なぜか怖いと思った。
「昨日、は雨だったよ……?」
「……そっか、今日は凄く晴れたね。ごめん。疑ったりして」
瀬尾君は凄く申し訳ないと言いたげだった。
だけど私は、その先を聞けなかった。
「この写真、もらってもいい? それからこの裏に高畑さんの名前を書いてほしいんだ」
「え……名前?」
「うん、お願いしてもいい?」
止まったはずの涙が溢れてきそうになった。
私は大きく頷き、写真の裏にペンで名前を書いた。
それを渡すと瀬尾君は満足そうに微笑む。
「ごめん。僕、人より物忘れが激しいからすぐ忘れちゃうんだ」
笑っている彼は、私に気を遣っているように見えた。
「いや、大丈夫……だよ。私もカッとなってごめん」
「ううん、高畑さんは悪くないから。それじゃあ僕は図書室に戻るね」
ばいばい、と手を振って歩き出す瀬尾君に声をかけることができなかった。
物忘れが激しい、?
本当に、そうなの。分からない。
私は、何をすればよかったんだろう。