甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
”バタン” ではない、”ドォォォン” というような音が響いて
ユアンは今度は本当に、ぽかんと口を開けた。
勢いよく閉じたドアと、その衝撃でがたんとずれた壁の絵を見ながら
なぜ、急にフィーネが怒鳴ったのかわからず、ユアンは首をかしげる。
「突然、なんなんだ?」
そして、フィーネの言葉を思い出して、ユアンはむっと口をとがらせた。
「セオのやつ!」
そう呟いたところで部屋のドアが開き、今まさに頭に思い浮かべた人物が
入ってきた。
「いったい何だ? 大岩でもぶつかったかっていう音がしたぞ」
暢気な声でそう言いながら入ってきたセオを見て、ユアンの眉間に皺がよる。
「セオ! おまえな!」
詰めよれば、ユアンを宥めるようにセオは両手をあげて、一歩、二歩と
後ずさった。
「いやいや、積もる話はあるかもしれないが、ほれ」
猫なで声でそういい、セオは懐から懐中時計をだすと、ユアンの顔前に
ぶらさげる。
「もうこんな時間だ。それに馬車もさっきから、おまえを待っている」
掴みかからんばかりだった腕をおろし、踵を返したユアンは、ソファの上の
上着を手に足早にドアに向ながら、セオに人差し指を突きつけた。
「セオ! 覚えてろよ!!」
フィーネほどではなかったが、再びドアがバンと勢いよく閉められ
ずれていた壁の絵が、とうとうがたんと床に落ちた。